水野久興さんに、記事のアーカイブ再掲載をお願いするメールを差し上げたら、長い文章が返って来た。
 ドミンゴは、ホンダ・モビリオに乗り換えられていた。その顛末とドミンゴへの想いがとても良く表現されているので、その一部を再掲載させていただく。
「先々代のサンバーから、また先代の初代ドミンゴ
と、30年近くスバルで乗り継いできたので大変こだわりは有ったのですがとうとう乗り換えてしまいました。
車の調子はエンジンなど走行系はいたって快調だったのですが、問題なのがエアコンで、完全に故障していて修理に20万近くかかるようでした。
この2年間エアコン無しでなんとか耐えてきました
が、夏前の車検でこの先また2年エアコン無しを考えて、さすがに買い替えを考えました。
車検とエアコン修理代をあわせたら、中古購入の方がよっぽど安いということで決断に至りました。
もう一つ、サンルーフの開口部分が腐食していて、相当の雨漏りがしていました。
今年の豪雨のことを考えると、そのままでしたらどうなっていたことか。

昔話ですが
当時、僕がドミンゴ(そのまえはサンバーですが)を選んだきっかけは、学校を出て就職を考える時期にある友人から言われた一言に有ります。
普通に就職するか音楽の世界に入るか悩んでいた20才の頃、同じ音楽を目指す友達にいわれました。
『もしプロでやっていきたいなら、自分の楽器は自分で運べなければダメだ』
免許も車も無い自分は、すぐ教習所に通うことに
なり、それがこの道を選ぶ最後の一押しになり
ました。

当時、ミニバンというカテゴリーも無く
荷物を運ぶとなると、ライトバン ハイエースみたいなものが主流でしたが、さすがに初めての車で大きな車はちょっと抵抗があり、それで選択したのが軽ワンボックス ということです。
免許を取り初めての運転が、バンドでプロモーションビデオをとるため横浜までの行程でした。
機材やメンバーを満載して初めての第三京浜は、すごくビビッたことを覚えています。
その後、車検にあわせて、1ランク上のドミンゴに乗り換えました。

そんな訳で、自分の人生とはすくなからず関わりのあった車ですが90年代くらいからのミニバンのブームで、自分のニーズにあった車種はいくらでも出てきました。
それでも乗り続けてきたのですが、最近では仕事上あまり楽器を積まないことが多くなりました。
というのも、昨今のコンピューターの進化で、バーチャルな楽器が主流になり運ぶのもノートパソコン1つで済むことが多くなりました。
データ転送で仕事が終わることさえ有ります。
自分の仕事上、マル必であったドミンゴの存在が薄くなっていました。

僕の場合、車ありきではなく、自分の生活にあわせての選択なので他の掲載の愛好家の皆様とくらべてなんともお恥ずかしい限りです。
10年10万kmの掲載にはあまりふさわしくない
ですね。
ただ、偶然の出会いにしろ自分の仕事や人生にすくなからず関わってくれたドミンゴは大変思い出深い車になりました。
そして、やはり自分はドミンゴのフォルムが好きで、
こんどのモビリオを選んだのも、その面影をすこし感じるからではないかと思います。」

 水野さんは、ドミンゴはとても古いので、日本国内で中古車として販売されることはなく、どこか外国に輸出されてしまうのではないかと案じていた。
 輸出されたとしても、ドミンゴのスペースユーティリティの高さには、どこの国の人でも驚くと思いますよ。

週刊・金子浩久 第3号 10年10万kmストーリーアーカイブ3回
(2012年10月15日発行)




「10年10万kmストーリー」アーカイブ3

音を乗せ、音が違う

水野久興さんとスバル・ドミンゴGX-X(1991年型)
11年
4万km
写真・三東サイ

●今では、USBメモリーに

 デジタル技術の発達によって、音楽をめぐる状況は大きく変わった。特にこの10年、楽曲が制作、録音される過程において、コンピュータとその音楽ソフトが果たす役割が重要になってきた。
「スタジオでは、シンセサイザーというものは、もう存在しないと言ってもいいでしょう」
 昔は、ひとつの音色に対して一台のシンセサイザーが存在していた。だから、ミュージシャンには何台も必要だった。だが、現在は、パソコンと鍵盤だけで構わないという。
 水野久興さん(47歳)は、大学卒業後からキーボード奏者として活躍している。
 11年間で4万キロ乗り続けているスバル・ドミンゴは、2台目だ。ドミンゴは、もっぱらライブ会場やスタジオなどの仕事に行くのに使われている。2代目のカタチが気に入らなくて、わざわざ中古の初代を探して購入した。
 最初のドミンゴの前には、スバル・サンバーに乗っていた。運転免許証を取得して以来、スバルのワンボックスばかり3台を乗り継いできた。
「サンバーを焼き直したドミンゴにも乗り続けているのは、シンセサイザーとスピーカー、鍵盤などの周辺機器を積み込んで仕事に行くためです。ドミンゴは荷室のスペースが広くて、たくさん載るので重宝しています」
 最近では、水野さんも自宅で作曲した楽曲のデータをUSBメモリーに収め、電車でスタジオ入りすることが増えている。データ量が小さければ、メールに添付して事前に送っておくなんてこともあるくらいだ。
 技術の進歩は、凄まじい!
「ただし、ステージの場合はシンセサイザーを持っていきます。フリーズのリスクを負わないためです」
 シンセサイザーを知らない若いミュージシャンも出現し始めてきているから、パソコンとソフトの性能がいくら上がっても、水野さんの出番はなくならない。むしろ、増えている。
「いま、楽器が弾けなくても作曲はできます。でも、ミュージシャンが楽器のことを知らなくては、いい曲にはならないでしょう」
 いくらデジタル技術が発達しても、音楽を作るためには楽器が奏でる音に親しんでいなければならない。水野さんはデジタルの恩恵にあずかりつつも、音楽の本質を疎かにしない。

●乗らないことで寿命を延ばす

 サンバーから始まり、ドミンゴを2台乗り続けているのは、パソコンではなくシンセサイザーを演奏することを大切にし続けている結果だ。時々の温泉旅行などにもドミンゴは駆り出されているが、ほとんどは仕事で乗られている。
「なるべく乗らないようにしているんですよ」
 あちこち調子の思わしくないところがあり、乗らないことで寿命を延ばそうとしている。ラジエーターの修理やエンジンオイル漏れを直した時には、いちいちエンジンを下ろさなければならなかった。手間取り、費用もかさんだ記憶が残っている。
「前後のデフがバカになっちゃって、ハンドルを一杯に切った時に、ギギギギギッて、停まりそうになることもあるんです。でも、ガリッとつながって自然に直るんですけど」
 マリンバ奏者の父と母と同居する自宅の一階にドミンゴは停められている。すぐ横が、グランドピアノやマリンバが置かれた父の部屋で、その奥の部屋に水野さんのシンセサイザーや各種の演奏機材がところ狭しと詰まっている。たくさんの楽譜集やLPレコード、CDなどが両方の共通点だが、パソコンが部屋の中心部にあるところが違う。
「シンセサイザーを積んでみましょうか?」
 幅50センチ、長さ150センチくらいの大きなシンセサイザーのケースを、水野さんは慣れた感じで部屋から運び出した。ケースの底にふたつのホイールが取り付けられたローラーの精密な様子に、プロフェッショナルユースの片鱗が表れていた。
「一台目は、バンパーが触れないくらい熱くなって、マフラーから蒸気っぽい白い煙を大量に撒き散らすようになって、14万キロでリタイヤさせました」
 リアバンパーを手前に引くとロックが外れ、中からエンジンが顔を覗かせる。水野さんは、両側に備わったスライドドアの左側を開け、2列目と3列目のシートを折り畳んだ。最近のミニバンのように、ワンアクションでシートがフルフラットに倒れるというわけではないが、簡単な操作で広大な荷室が生まれた。
「タイヤボックスが出っ張っていない分、無駄なスペースがないんです」
 その通り、リアフェンダーの膨らみが荷室に張り出していないから、真四角の空間が出現した。そこに、慣れた手付きでシンセサイザーを積み込む。あと10台くらい積み込めそうだ。天井のスピーカーがなければ、もっと空間は広がる。
「3列目だけ畳んで荷物を乗せ、2列目には誰か人を乗せて走る時が一番好きですね。ワイワイ話をしながら走ると楽しいじゃないですか」

 

●家内手工業的なスバル

 フルにシンセサイザーと機材を積載しなければならない時は、スピードが出ず、ブレーキも効かなくなる。
「空荷でも、腰が重い。出足が悪くて、ノロいですよ。でも、慣れちゃいましたから、普通のクルマに乗ると速すぎて怖いです。ハハハハハッ」
 リアバンパーの塗装が、ささくれのように禿げ掛かっている。何度か塗り直してみたが、元の姿に戻ってしまう。
「家内手工業的なところが、スバルらしくて好きですよ。今は、ダマしダマし乗っていますけど、新型ドミンゴが出たら、すぐに買い替えます。スバルの箱バンが好きなんです。昔のホンダのステップワゴンが好きだったんですけど、免許を取った時には中古車すら、もう出回っていませんでした。それで、サンバーを」
 初代ステップワゴンのように、ノーズが少し前に出たワンボックスが好きなのだという。ドミンゴも、初代だけは飛び出している。
 ドミンゴは、3列シートや高い天井、両側スライドドア、フルタイム4輪駆動など現在のミニバンが声高に取り入れている仕掛けをとっくの昔に実現していた。いかにも、新技術と新機軸の導入に積極的なスバルらしい。今年になってエクシーガを投入したのは遅過ぎたが、ドミンゴは逆に早過ぎだったとも言える。
 車検はスバルディラーに出していて、費用は約20万円。
「音が違うって、仕事仲間から言われるんですよ」
 エンジンを掛けて聞こえてきた排気音は、ボッボッボッというパンチの効いたものだった。
「もしかすると、ゼロ戦もこういう音だったのかもしれない。そうだとすると、うれしいんだよね」
 水野さんに会った翌々日、迎賓館の前の赤信号で停まっていたら、X字型の変則交差点を四谷見附方面へ抜けていく水野さんのサンバーとすれ違った。荷物の量まで見えなかったけど、そんなに遅くはありませんでしたよッ、水野さん。

『NAVI』誌2009年1月号より転載

いまは無き『NAVI』誌で、1990年3月号から2010年2月号まで、二度にわたって長期連載していた
「10年10万kmストーリー」は4冊の単行本にまとめられている。
しかし、まだ収められていないストーリーがたくさんあり、切り抜きを収めたスクラップブックを
ときどき引っ繰り返してはパラパラやっていると、その後のみなさんの様子が気になってくる。
変わらず元気に過ごしているのか?
まだ乗り続けているのか?
それとも、他のクルマに乗り換えてしまったのか?
3列目シートを畳むと、広大なだけでなくタイヤフェンダーの出っ張りが一切ない直方体のトランクスペースが
出現する。
前後ドア開口部と給油口
自室の水野さん。
パソコンを前にしてはいるが、2台のキーボードや沢山のLPレコードなども。

●スバル・ドミンゴとは?
  1983年に登場したスバルのミニバン。水冷直列3気筒1リッターエンジンをリアに搭載し、3列シートを備え、7人乗りを実現して
いる。ボディは軽自動車のサンバーを少し拡大したもので、ホイールベースやトレッドなどはサンバー・トライ4WDにほぼ準じていた。
7人乗りとはいっても、前から2+2+3という座席レイアウトが、今日のミニバンと異なっている。エンジンは、86年に、1.2リッターに拡大。当初からラインナップされていた4WD版は88年にはフルタイム化され、90年に2代目にフルモデルチェンジした。

ドライバーをクルマの最前部に着座させる“攻めた
”パッケージング。
next
previous
3
2列目シートを畳めば、この通り、広大な空間が出現する

 

ご自宅の前でドミンゴと水野さん。ふだんは、ドミンゴは縦に停められている
yy