野水さんにメールを差し上げたら、146tiに乗り続けていた。取材時から3年半が経過して、約5万kmが追加された。ご丁寧に、積算計の画像まで送って下さった。

「あの後、オイルパンをぶつけて割ってしまい。修理したのが一番大きなトラブルと思います。
その影響でクラッチケースにクラックも見つかり、ついでに初クラッチ交換。

フューエルポンプも交換しましたが、
最早、故障というより寿命だと思っています。

目下の悩みは、純正部品(エンジン周り以外)が見つかりにくくなった事かもしれません。
現在は足回り部品を探しているところで、足回り交換に向けタイヤは新品に交換済。
というところで、まだ乗り続ける予定です。後は自動車税も今年の春から上がりました。」

 野水さんの自宅前で、その積算計の距離数がちょうど20万kmに達したところを写真に撮ろうと行ったり来たりしたことを思い出した。雪国なので、道路以外はたっぷりと雪が積もっていた。二度目の独身生活を謳歌している(ように僕には見えた)野水さんの清々しさが雪のように白かった。

週刊・金子浩久 第4号 10年10万kmストーリーアーカイブ4回
(2012年10月22日発行)




「10年10万kmストーリー」アーカイブ4

実質を尊んだ実用車の実力

野水秀一さんとアルファロメオ・アルファ146ti(1998年型)
11年
20万km
写真・三東サイ

●ヨーロッパ車に乗りたかった

 日本車と輸入車。
 世界が小さくなり、経済のグローバリゼーション化が進んだ現在にあっても、ふたつには大きな違いが存在している、と考える。機械製造メーカーに勤務する野水秀一さん(40歳)も、その考えを抱いている。
 乗り続けているアルファロメオ・アルファ146tiが、それ以前に乗っていた日本車とあまりに違っていたことが、11年間で20万キロも乗り続けた原動力になっている。
 ホンダ・インテグラを2台乗り継いだ次のクルマとして、野水さんはヨーロッパのクルマを探し始めた。
「一度、ヨーロッパ車に乗ってみたかったんです」
 1990年代初頭から中盤に掛けての日本車は、野水さんにはコストダウンが眼に余って映っていた。仕事柄、自動車用などの機械製品のコストの掛け方を見抜くことができたからだ。
「コストダウンの方法も変わって来ていましたね。単に安いパーツに置き換え、作り方を単純化する従来からのコストダウンではなく、下請けメーカーに開発作業ごと丸投げするやり方が当たり前のように行われていっていました」
 中でも、野水さんが憤っているのが、シートやブレーキ、サスペンションなどの重要なパーツを自社で開発せず、代わりにヨーロッパの一流ブランド品を装着することを、さもありがたいものであるかのような商品企画だ。
「アフターマーケットで販売している“本物”を付けるのならまだ許せるのですが、自動車メーカー納入用の“別物”が装着されている例がとても多かった」
 二重の欺瞞ではないか。
「価格に対する価値を蔑ろにした姿勢に疑問を持ちました」
 日本車に幻滅した野水さんは輸入車の中から、4年15万キロ乗ったインテグラの後継を探すことにした。

●試乗しないで購入

 学生時代に、友人のフォルクスワーゲン・ゴルフGTIに乗せてもらって、とても面白かったが、その型のGTIはとっくの昔に生産が終了し、中古でも入手は難しかった。プジョー306やアルファロメオ145の高い評判を耳にしたが、野水さんは2ボックス車があまり好きではなかった。3ボックスのシルエットの方がバランスに優れるからだ。インテグラも、3ボックスの4ドア・ハードトップ(懐かしい!)版に乗っていた。
 145には、3ボックス車版の146があるはずだが、フィアット・ジャパンでは導入していなかった。
 145についても調べ、いいクルマらしいことはわかったが、3ボックスの146の存在を知ってしまうと、諦めることはできなくなってしまった。そんな折りに、NAVI誌上で、埼玉県入間郡のガレージエストの広告を見付け、146tiの並行輸入車が売られていることを発見した。
 並行輸入車ゆえのこともあり、146tiには試乗しないで購入した。382万円と、決して安くはない。勤めている会社の労働組合員向けの自動車ローンを利用した。金利3.9パーセントの120回払い。なんと、10年間もの超長期ローンだ。
 購入以来、往復13キロの通勤のほか、ほぼ毎日の日常生活すべてに146tiを利用している。
「146tiは実用車です。ロールは大きいけれど、乗り心地が良くて、長距離でも疲れない。運転している実感があって、飽きません。日本車は実感が薄く、飽きる」
 たしかに、146tiは実用車だ。後席に座ったり、テールゲートを開けたりしたが、家族とともにさまざまな使い方に対応できるよう作られた、実質を尊んだ実用車であることを改めて実感させられた。
「実用車なのに、アルファロメオらしくデザインされている。でも、日本車は実用車と呼ばれた途端、デザインが施されなくなる」
 それはクルマについての話だけではなく、イタリア人が衣食住すべてにわたって美を追求し、カッコ良く生きようとしているからだ。野水さんは、146tiに乗り続けることによって、日本とイタリアの文化の違い、人間と人生に対する姿勢の違いを体得した。
「でも、日本で使用される環境が違うからなのかもしれませんが、機械的な耐久性や品質面では、劣っていましたね。ハハハハハハッ」

 

●飽きさせない工夫

 10年間にいくつかもトラブルが発生したが、最大のものはコネクティングロッドの焼き付きだ。購入して2年目、走行4万4000キロぐらいで起きた。
「カチカチカチッという音が聞こえて来たと思ったら、走行中にエンジンが停まりました」
 トランスポーターでガレージエスとまで運び込み、修理に3ヶ月も要した。分解して、ビッグエンドのメタルが焼き付いていることは判明したが、その理由はわからなかった。
「“これがイタリア車というものなのか!”と驚かされもし、同時に“走行中にエンジンが焼き付いて停止するような自動車の設計って、何なんだッ”て呆れもしました」
 他にも、補機ベルトが外れ、パワーステアリングのオイルラインに亀裂が入って漏れ出したりした。
 自分で修理するために、東京四谷のイタリア自動車雑貨店で整備マニュアルを購入した。分厚いファイルが全4冊で、約5万円。
 問題が発生すると、まず、ガレージエストに電話で相談する。自分でできそうなことがわかると、パーツを代引きの宅配便で送ってもらい、自宅横のガレージで作業している。
「ドアハンドルとミラーは自分で塗り直しましたけど、最近、アルファレッドのカラーコードが“130”から“290”に変わりましたね」
 ラジエーターのファンが高速モードで回り続けて停まらなくなった時は、アルファロメオ新潟にダイアグノーシス診断を依頼した。代金を請求されなかったが、申し訳ないのでファンレジスターとリレー交換を頼んだ
 3年前に独身になり、クルマと荷物が減って、その分スペースに余裕のできたガレージには、ホンダCB400SuperFourとヤマハYB1の2台のバイクの他、整備用工具や自転車、スキー板などがところ狭しと並んでいる。超長期ローンは完済したが、146tiに代わるクルマが見当たらないという。
「代えたいとも考えていません。だから、2台目としてアルファ・スパイダーを物色中です」
 最近も、89万円で売りに出ていた'99年型を横浜まで見に行った。
 野水さんは自動車部品や機械部品設計のプロフェッショナルだし、自分で修理もできるから146tiに乗り続けているのだろうか。違うと思う。146tiの設計に疑問を抱きながらも乗り続けているということは、それ以上の魅力を持っているからではないか。野水さんが“飽きない”という言葉で表現したように、日本車ではかなわなかったヨーロッパの小型実用車が、まだ実力を発揮し続けているのだ。

『NAVI』誌2009年4月号より転載

いまは無き『NAVI』誌で、1990年3月号から2010年2月号まで、二度にわたって長期連載していた
「10年10万kmストーリー」は4冊の単行本にまとめられている。
しかし、まだ収められていないストーリーがたくさんあり、切り抜きを収めたスクラップブックを
ときどき引っ繰り返してはパラパラやっていると、その後のみなさんの様子が気になってくる。
変わらず元気に過ごしているのか?
まだ乗り続けているのか?
それとも、他のクルマに乗り換えてしまったのか?
乗り降りの際に服と擦れるところは、どうしてもこのようにシート表皮が擦り切れ、ヒビ割れが進んでしまう。
自分でメインテナンスするから工具はクルマにも
積んである。
ガレージには、本格的なジャッキとバイクが。
4冊で約5万円もしたサービスマニュアル。

●アルファ146tiとは?
 古くは、アルファスッド、その次の33に続くアルファロメオのベーシックカー。2ボックス型の145が先行して発表され、3ボックス版の146は1年後の1995年に発表された。145と146とのデザイン的な関連は強くなく、似て見えるのはフロントフェイスぐらいだ。サイドやリアビューは、違った印象を与える。1.3から2リッターまでの4気筒で前輪を駆動。フィアット系の直列4気筒とアルファスッド系の水平対向4気筒が存在した。2000年まで製造され、後継はアルファ147。今年は、さらに小さなミートが出る。

ぴったり19万9999kmに合わせて僕らの取材を待ってくれていた。
そして、現在は25万3954kmに。
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自宅周辺を1kmぶん走って、20万km!に。

 

赤いマフラーを146tiのボディカラーにコーディネイトした
野水秀一さん。