週刊・金子浩久 第8号 ファッション企画1回 Jipijapaとのドライバーズジャケット完成
(2012年12月1日発行)



Jipijapaとコラボレーション
ドライバーズジャケットが完成

●凝ったアイデアが満載
 蚊帳から15年以上を経て、次に加賀さんが思い付いたのがエマージェンシーハーネスだった。レーシングスーツの両肩に縫い付けられているエポーレットは、アクシデントの際に自分で脱出できなかったドライバーを外から引っ張り出すためのもので、それだけの強度が義務付けられている。
「エポーレットは肩に付いているけれども、それではジャケットには使えない。タスキのように両腋の下を通したのがこれですね」
 と言って見せてくれたのが第2次世界大戦でのイギリスの軍服を記録した写真集。加賀さんが開いたのは戦車兵の服のページだった。
 自分が誰かに引き出されるところは想像したくはないけれども、何か機能を付けたくて仕方がないところが加賀さんらしかった。
「それだけのためではツマラないので、黄色い生地にしてリフレクターを縫い付けることはできますか?」
 僕が思い付いたのは、黄色やオレンジ色のペラペラのジャケットだった。ヨーロッパでは車載工具と一緒に新車に装備されていて、タイヤ交換などで仕方がなく路肩で作業する際に他のクルマから見えるように着用が義務付けられている。
「リバーシブルにして、クルマの脇で何かの作業をする際に着るようにすればいいんですよ。リフレクターを付けて他のクルマからの安全が確保できますよ」
「カネコさん、“安全運転”をデザインのコンセプトにしましょうよ」
 運転しやすいという点も安全運転に寄与できるということから、袖は変型ピボットスリーブという形式が採用された。
 同じ理由から、運転中のジャケット下部のモタ付きを解消するために、裏地の一部の四隅にボタンホールを開け、表地の裏にボタンを付けてある。立っている時には閉じているが、シートに腰掛けると自動的に開くようになっている。この自動オープンシステムは加賀さんは好きで、他のJipijapaでもよく使われている。
 表地の生地は日本製の超高密度コットン。濃い紺色で弱撥水性なのでにわか雨ぐらいならばしのげる。
 エマージェンシーハーネスには「ベクトラン」という強くて燃えにくい生地を使用している。なんと、宇宙ロケットが地球に帰還する時のバルーンに用いられているのだという。
「この生地を切るには専用のハサミが必要なくらいに断裁に強いんですよ」
 ちなみに、その専用ハサミは5万円以上もするそうだ。
 衿は立ててファスナーを上まで全部上げてボタンで閉められるようになっている。折りやすいようにストレッチ素材を使った、身頃とは違う生地が用いられている。
「衿というのは直線で作るよりも、凹状にした方が折りやすいんですね。レスレストンでも、この形状を採用しています」
 このジャケットの衿は立てたり折ったりすることが多くなるので、折りやすさと折った時の安定感の高さ、その形状の美しさにはずいぶんと試行錯誤した。

ファッションブランド「Jipijapa」(ヒピハパ)のデザイナー加賀清一さんと一緒に構想してきた
ドライバーズジャケットが完成しました。
 ここに、その姿をいち早くお伝えいたします。
ソデの身頃への取り付け部分に変型ピボットスリーブを採用し、
背中が突っ張ることなく腕を動かしやすくできている。
エリは折り返しやすいようにストレッチ素材。
エリのカタチは左右非対称。開けやすく閉じやすい。
路肩でタイヤ交換などをする時には裏返して着用する。
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ハンドルを切るのに腕を交差させやすい構造。

コンセプトは安全運転
 トラッドをベースにしながら、加賀さん流のひとヒネリもふたヒネリも加えられた服「Jipijapa」の長年のファンだったが、“クルマの運転をしやすいジャケット”を一緒に作ろうと意気投合したのが2012年はじめ頃だった。
 日暮里の繊維問屋街を抜けた先にある加賀さんのオフィスを久しぶりに訪ねた。お眼に掛かるのは、もう15年ぶりぐらいになろうか。
 2003年に僕が東京からポルトガルまでクルマで旅した時に加賀さんがデザインした「蚊帳ジャケット」を着て行ったことを本に書き、写真を掲載したことが再会のキッカケだった。


(蚊帳ジャケットは3分10秒のサンクトペテルブルクのネフスキー大通りをハンドルを持ちながら歩いている時と、4分40秒のロカ岬到着時に着用しています)

 蚊帳の生地を一部に用いたそのジャケットは、ファスナーがフードの端まで続いているから、引き上げると自分の頭がスッポリと収まってしまう。
「ホラッ、こうやって全部覆っちゃっても前が見えるでしょ!」
 僕はたまたまシベリアの湿地帯で日本のヤブ蚊の倍以上の大きさがある吸血蚊の大群から身を守ることができたのだけれども、ほとんどの人にそんなことは起こらない(笑)。でも、それをデザインにして面白がってしまうところが加賀さんらしいのだ。

同じように、クルマをバックさせる時にも腕を伸ばしながら動きやすいように
できている。
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前後にわたる黄色い布地にはリフレクターテープが縫い込まれ、光を反射して安全を確保。
背面にもリフレクターテープが。
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●少数限定生産
  パッと見ると、単なるコットンのジャンパーだ。しかし、手に取って腕を通してみると、その生地の軽さと柔らかさ、そして腕の動かしやすさにニンマリさせられてしまった。画像では伝わりにくいが、深い紺色が美しく、手触りも繊細だ。
「あのヤモリをマスコットマークにしましょう」
 夏に僕の自宅の網戸にしばらく寄宿していたヤモリの画像をFacebookに投稿したのを加賀さんは憶えていて、その画像をそのまま型に起こして織り込んだ。反射材と蓄光材を織り込んだ糸だから光を受ければ反射するし、光を蓄えるので脱いだジャケットを再び手に取る時の目印になる。
 スーツやジャケットを誂える時でも、初めての仕立屋ではお互いの意志の疎通がままならずに、なかなか完璧には仕上がらない。
しかし、このドライバーズジャケットは完璧に近くでき上がったのがうれしい。凝りに凝った加賀さん流のデザインで一杯だ。
 早ければ12月下旬、遅くとも1月には発売開始。品番はJP035101。価格6万2000円。
Jipijapaの服は新宿伊勢丹やユナイテッドアロウズ、全国のセレクトショップなどに置かれていますが、このジャケットは少数生産のためにその限りではありません。確実に購入するためには、通販サイトのrumors.jpか加賀デザイン(電話03-3801-5874)までお問い合わせ下さい。


両開きファスナーを採用し、運転中のゴワ付きを避ける
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ハンガーループは身頃内のエマージェシーハーネスに
つながっている。
大きめのハンガーループはエマージェンシーハーネスを兼ねている。
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マスコットのヤモリは光を反射する糸と蓄える糸で縫われているので、暗いところでの目印になる。
金子浩久著『ユーラシア大陸横断1万5000キロ』

 

完成したJipijapaのドライバーズジャケット。軽くしなやかな着心地です。